ブラックフォレスト文書 (1)

ブラックフォレスト文書 (1)

箱詰めにされた死体

それは、1951年3月13日に起きた事件を受けて1951年8月10日にはじまった。当初は《集まり》《例の集まり》とだけ呼ばれていたという。

簡素な名称とは異なり、取り上げられる話題は、その地域全体にとって死活問題であることは参加者共通の認識であった。とはいえ、内容的には回を重ねてもほとんど進展はなく、新たに発覚した過去の事例と、それに対する祈りと呪詛の言葉だけの代物であった事が議事録からは窺える。

当初3名から始まったそれは、途中数度か主に寿命による人員の入れ替えや増員を経た後、20年後の1971年現在は、7名で構成される街では公然の秘密の《集まり》となっていた。そして最初の事件と認識されているのは、124年前の1847年5月29日の事件であるが、この地域に小さいながらもコミュニティが形成されだしたのが1840年頃からで、それ以前にこの地域に入植した者たちについては記録がなく、本当のはじまりがいつだったかは今もって不明なままだ。

さらに最初とされる1847年も、遺体の状況に“類似性があるようだ”というだけで、当時はまだまだ未開の地ともいうべきこの地域において、事件の記録そのものの信憑性について疑問を呈する声も少なくない。但し、はじまりはともかく同一手口による殺人事件が起きているのは、1913年、1931年、1933年、1949年、そして1951年の状況を見れば明らかだった。

一連の殺人事件は、グループによる犯行という説が常識になっていた。これは時間的に到底ひとりでは処理できない儀式めいた死体損壊行為を行っている事から明らかだと思われており、124年前の事件についても、グループでの犯行であれば人の寿命も関係なく、その“儀式”が代々受け継がれてきたという解釈が成り立つからだ。

ところがそうなると、殺人も厭わない異質のコミュニティが身近に存在するという事になるが、そのあたりについては《集まり》ではあまり頓着した様子はない。目の前の殺人事件の方に囚われていたのだろう。

ここで、1951年に起きた事件を地元紙スコット・ヘラルドの記事を元に再構成してみよう。

3月13日の未明、保安官事務所に衝突するような勢いでフォードのピックアップトラックが急停車すると、ドウ家の長男イーサンが運転席から転がり出て、保安官の名前を呼びながら事務所に駆け込んだ。保安官のゲイリーは外の喧騒に何事かと身構えていたが、入ってきたイーサンの姿を見てひと安心した。しかし彼のただならぬ様子と説明にならない説明を聞き、2年前の事件を直ぐに思い出し現場に向かった方が早いと判断、イーサンを急き立てると保安官補のルイスと共に事務所を後にした。午前4時25分の事であった。

イーサンの断片的な話で、既にドウ家の全員が死亡しているらしいと把握できていたため、現場に到着した保安官たちはイーサンをパトカーに残すと、犯人たちが家の中に潜んでないか確認しつつダイニングに向かった。

死亡していたのは、イーサンの父親・クーパーと母親・ベイリー、妹・ルーシー、弟・コナーの4人。各々の身体は、1.5フィート(約46センチメートル)四方の各辺が鉄で補強されているガラスの箱に詰められ、ダイニングの入り口近くに横並びに整然と置かれていた。さらに、それぞれの箱の上には対応する首が入り口を向いて鎮座していた。時間は午前4時50分だった。

医者を呼ぶまでもなく、イーサンの証言どおり4人が死んでいる事は一目瞭然で、ゲイリー保安官は、ルイス保安官補に至急郡の保安官事務所に連絡するように指示を出した。保安官補はクルマに乗り込むと保安官事務所にとって返した。保安官はイーサンと共にドウ家に残り、念のために家を見張った。

午後2時10分に郡の保安官事務所から応援が到着すると、現場検証がはじまった。しかし得られる情報はほとんど無く、通り一遍の検証が終わると応援の者たちは早々に引き上げた。

その後、夕方になる頃には「殺人事件があった」という情報は街中に知れ渡り、人口1,500名ほどの街は騒然となった。しかし、そこに「2年前と同じ事件」という情報が追加されると、人々の口には表だって事件の話は上らなくなった。

もちろん、事件そのものが解決した分けではなく、以前の事件を皆一様に思い出し、解決に期待する事を止めたのである。

事件を報じた記者は最後に、「人体を解剖しそれをガラスの箱に詰めるなど、理性を重んじる弊紙においても、敢えて“悪魔の仕業”と形容しなければ納得し得ない出来事であった」と結び、事件に対して嫌悪と恐怖、そして諦めを抱いていたようだ。

この後のスコット・ヘラルドは、住民たちが「2年前と同じ事件」と聞くと口を閉ざしたのと同じように、事件についての続報はほとんどなく、ドウ家の追悼記事が大きな扱いになったくらいだった。

これはフィクションです