何かを踏んづけた感触

何かを踏んづけた感触

間一髪で事故を逃れる!?

この前、自分も含めた3人で居酒屋で飲んでたら、その中のAってヤツの不思議な話になった。

「ここ半年あまりで5回ほどあった事なんだけど、普通に歩いていると、いきなり何かを踏んづけたような感触があってさぁ、こっちは、犬の置き土産でも踏んだのかと思って慌てて足下や靴の裏を見てみると、何かが落ちているわけでもなく靴の裏にも何も付いていないわけよ。

──喰ってる時に、わりぃねぇ。

で、ウチの近くは頭のおかしいヤツがいるらしく、定期的にアレが始末されずに道路に放置されてるから、こっちもそれなりにいつも注意して歩いてるんで、ないと分かっている所を選んで歩いているのに、いきなり何か踏んだ感触があるってメチャ怖くてさぁ。

ラット?マウス?的なヤツや、G的なヤツを間違って踏んづけて踏んづけられた方は逃げた後だったかも、といった事もその直後には考えるんだけど、毎日のようにある事でもないから、こっちも変だなぁと思いつつそのまま放置というか、そこまで深く考えてないというか。まぁ、三歩も歩けば忘れるんで。

ところが、ところがね。この前の0時過ぎ、駅から自宅まで歩いてたら例の感触があってさぁ、夜中という事もあり見落としも考えられるんで、当然のようにその場で足下と靴をチェックするわけ。結局何もない事を確認しただけで、何だよぉ~と思いつつ、もやもやした気分のまま歩いていたら、いきなりタイヤの鳴る音やクラクションなどと共にドーーンという凄い音がしてさぁ。

──事故ですわ。ちょうど渡っていた交差点のさらに先の交差点で、2台のクルマの接触事故。1台は歩道まではじき出されてたね。幸い死人は出なかったみたいだけど」

「それって、立ち止まらなければ、事故に巻き込まれていたって事? でも話を聞く限り、Aと事故現場は結構距離があるみたいだけど」と、Bが思わず口を挟んだ。

「まぁね、事故現場との位置関係だけを見ると結構離れてるんだけど、実際のところは、事故のあった交差点の手前の交差点に着くと、青の点滅がはじまっていて、何か嫌な予感がしたんで次の青まで待つ事にしたわけよ。もし、何か踏んづけたかもって立ち止まってなければ、青の点滅がはじまる前に横断歩道を渡りはじめて、途中で点滅しても渡りきってたと思う。となると、事故の起こった交差点にワンテンポ早く着くわけで、もろに事故に巻き込まれてただろうね」

「マジで! Aの守護霊とか!? じゃ~、他の件についても調べてみると何かあるかも」と、オカルトに目がないBが俄然食い付いた。

満更でもない様子のA。

すると、自分たち3人が座っているテーブル席のすぐ隣のカウンター席で呑んでいた小父さんが、いきなりこちらを振り向いて馴れ馴れしく話し出した。

「それって、逆とは考えられないかな。手前の信号機を早いタイミングで渡っていれば、事故のあった交差点もすんなり通過でき、君が難を逃れたと同様に事故に巻き込まれなかったかも。災難から逃れさせるためじゃなく、災難に遭わせる可能性──。事故の巻き添えを喰らうタイミングを謀ってた可能性──。青の点滅を強引に渡らせないようにした方が、君を守った方かもね」と早口でまくし立てると、小父さんは嫌な笑みを浮かべた。

これはフィクションです