バス停の女

バス停の女

見えてる、見えてない

「あのバス停のベンチにいる女の人、大丈夫か?」

「バス停…?」と、放たれた言葉に間の抜けた返事をした僕。

「冗談だよな?」と、心配そうな感じで聞いてきた。

先ほどからバス停は視界に入っているが、女性どころか人影さえ見えない。「いや、ホントに…」と言いかけたところで、言葉を被せてきた。

「ホント、冗談は止めろよ。頼むからさ~」

怒気が少々含まれた物言いにちょっとカチンときたが、ここは調子を合わせる事にした。

「あぁ、あそこね。ごめんごめん、ちょうど光の加減で見難かったわ」

バス停には大きな広告が掲載されており、そこは煌々と明かりが点いていた。

ほっとした感じで、「俺、そういうのホント苦手だから止めて。俺しか見えてないなんて怖すぎるからさぁ」と言ってくる。

深夜の国道16線沿い。近所のファミレスで夕食というか夜食を食べた帰りだ。バスはあと4時間ほど経たないと来ない。

「飲んでるかな? ひと休みと思って座ったらそのまま寝入ったのかもね。最近物騒だし…でも、変に関わると誤解されそうだな。う~ん、どうしよう」

「どうしようもこうしようも、そんなの無視無視。さっさと行こうぜ」と、僕は自分の言動に薄ら寒さとある種の滑稽さを感じながら、帰宅を促した。

「まぁ、2人いるし大丈夫か」

僕は驚いて声を張り上げた「2人!」

バス停を見たまま次の言葉がでない。そして、どう言おうかどうか迷っていたところで、いきなり顔に光が当たった。

「どうしました? フラフラして危ないですよ。お一人ですか? お住まいは?」

目の前に、制服を着た男が立っていた。

これはフィクションです