あやかし

見えない蛇

集落の人々はめったにそこには近づかない。お屋敷の周囲には見えない蛇が徘徊しており、その蛇をうっかりであっても踏んでしまうと不幸が訪れるという。よって、お屋敷の周囲の道は出来るだけ避け、どうしても通る必要がある場合には、皆すり足で歩くらしい。

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刀自

「こんにちは。ちょっと通らせてもらうよ」道路に熊のぬいぐるみらしき絵を描いていたその子は、顔を上げ「こんにちは」と元気よく私に返すと、かわいらしい笑顔を見せた。私は、絵を踏まないように気をつけながら、女の子の横をすり抜けた。

とある旅館

先月、とある旅館に泊まったおり、自分一人しかいないはずの部屋に他の気配があるような気がして、深夜に目が覚めた。目の前には、陰影だけが妙に強調された何かがいた。慌てて上半身を起こし、その何かをまじまじと観察した。

列車で出会った女性

逃げられない 列車がトンネルに入った瞬間、通路を挟んで反対側に座っていた女性から、悲鳴とも呻き声ともつかぬ“声にならない声”が聞こえた。 いや、いくら通路を挟んだ反対側の近距離とはいえ、列車がトンネルに入った直後である。冷静に考えれば、トン......

お戻り様

約40年ぶりの出来事 昭和4年(1929年)の秋、事件は起こった。 前日までのぐずついた天気が一転し秋晴れの気持ちのいい正午過ぎ、深澤健夫の長男・進(5歳)が行方知れずと、母・敏子が駐在所に駆け込んできた。対応した中村巡査部長は、妻に敏子の......

視界

恵比須顔の老婆 嗚呼、もうこんな時間かと時計を見、伸びをして欠伸をひとつし、いそいそと床に入っていた時が懐かしい。 それが今や、まともに眠れる事はない。安心して眠れるのであれば、全財産を差し出しても惜しくはないが、その財産なんて高が知れてる......

突き当たりの部屋

忠告 学食で遅めの昼食を取っていると、後ろから声を掛けられた。 声で何者か分かったが、一応礼儀として徐ろに振り向き「おう」と応じ、「早朝から用事でも」と言いかけた所で、声を掛けてきた藤澤はこちらを睨め付けつつ、僕の向かいの席に座った。余りの......

カストリ雑誌『あやかし』を入手せり

それは床の間の床下に置かれ忘れられていた 太平洋戦争終結直後の日本では、エロ・グロを主題とした大衆向け雑誌が雨後の竹の子のように創刊され、そして消えていった。それらの雑誌を総称してカストリ雑誌という。そんななかに『あやかし』という雑誌があっ......