深夜の住宅街

深夜の住宅街

静寂に包まれた深夜の出来事

先週の水曜日、残業で遅くなって25時近くだったと思う。駅から自宅までの道のりで右にカーブしている道を曲がりきったところ、前方を女性が歩いているのが見えた。

辺りは一戸建てが多く建ち並ぶ住宅街で、時間も時間だけに静寂に包まれており、俺とその彼女の2人だけしか通りにはおらず、さらに自分の足音だけが結構響く感じで、かなり気まずいなぁと感じた。すると、女性も俺の存在に気づいたらしく、しきりにこちらを気にし出している歩き方になった。

気持ちとしては、さっさと追い越して何でも無い事をアピールをしたかったが、その時点で20メートルほど距離があり、早歩きで追い越すには時間が掛かりすぎるし、走って追い越そうにも、このタイミングで走り出したら余計に勘違いされるだろうと考え、彼女よりもゆっくり歩く事にした。それに、女性は先ほどより若干早歩きになっており、彼女があと20メートルも進めば四つ角に行き着くため、取り敢えずはそこまでの辛抱だ。

俺の帰宅ルートは、その四つ角で右というのが最短になる。女性がそこで、直進するか左に曲がってくれれば万々歳だが、仮にそこで右に曲がった場合、遠回りにはなるが直進するしかない。ただでさえ遅い時間で疲れているのに、そうなった場合さらに疲れるなぁと思いつつも、痴漢に間違われるよりは遙かにマシだと言い聞かせ、彼女の後をゆっくりゆっくりと歩いた。

ようやく女性が四つ角に辿り着くと、こちらの願いとは裏腹に右に曲がった。思わず「…右かぁ」と呟く俺。やがてこちらも四つ角に至り、そのまま直進しつつ右の道をひょいと見た。

──誰もいなかった。

彼女が進んだはずの道には、文字どおり人っ子ひとりいなかった。思わず足を止め、「この道を曲がって直ぐが自宅だったのかな?」と、俺がここに着くまでに女性が進み得たであろう範囲内の家を順に見た。範囲内には一戸建てしかなく、そのどれも直前に人を迎え入れたような雰囲気も形跡もなかった。

5、60メートル先には2階建てのアパートがあり、そのうち2部屋からは明かりが漏れていたが、「この短時間で、あそこまで行ける?」と疑問が口から出たが、ここで考えているのも馬鹿らしくなって、再び歩き出した。そして、無意識のうちにその四つ角を直進した。

彼女がいなくなった以上、自宅までの最短距離である右の道に進んだ方が良かった事に今更ながらに気づいたが、何となく遠回りをした方が良さそうな気がして、そのまま歩き続けた。

「門扉の開閉音もしなかったしなぁ…。ただ、そこまで音に神経を集中していたわけでもないしねぇ。あれっ音といえば、足音してったっけ…?」などと、つい先ほどの出来事をぐるぐると考えながら歩いていた。そうこうするうちに、女性が消えたように見えたのは、何か見落としたなんだろうなと結論づけたところで、次の四つ角に差し掛かった。俺は右に曲がろうと右の道に目を向けた。

──彼女がいた。先ほどと同じような後ろ姿が、そこにはあった。

冷たい何かが、身体の芯をスウッと走った。右に曲がろうとした体勢を、強引により右側に向けると回れ右した格好になり、元来た道へ引き返した。段々と早足になる俺、先ほどの四つ角に着く頃には駆け足になっていた。そこで一瞬迷った。ここを左に曲がれば自宅への最短距離だが、理不尽である事は承知しつつも、曲がった先にまたもや女性がいる可能性を考えた。しかし、とにかく自宅に戻りたかったので、意を決して左の道に入った。

果たして、そこはつい先ほど見た風景と同じ、人っ子ひとりいない道路が静かにあるだった。駆け足だった俺は、たまに後ろを振り返りつつ徐々に速度を落とすと、例の2階建てのアパート前あたりで通常の歩くスピードに戻った。

「どういう事? 確かにこの道に入ったはずなのに。それなのに何故、その先の道にいる。…見間違い? 流石にそれは…。う~ん…じゃ、こちらとあちらは別人、という事? にしては似たような…、イヤ同じ人物に見えたけど」と、再び奇妙な現象?体験?について色々と考察してみるが、結局、同じ様な背格好の女性が2人いた、ということで自分を無理矢理納得させる事にした。

これはフィクションです